• 本当は、田舎に庵を建てて隠遁生活したいけど、先立つものも無いので自宅で..。

ワイヤーアンテナの実験(1)

現用アンテナの概要

広い庭にタワーを建てて、マルチバンドの八木アンテナを建てるというのが理想ですが、諸事情があってなかなかそうはいきません。 できる範囲で、なるべく多くのバンドでオンエアしたい..ということで、簡単に上げ下ろしできマルチバンドで使えそうなアンテナとして、ワイヤーアンテナを建てました。

ここでいうワイヤーアンテナとは、所謂ロングワイヤーのことです。 それほど長くないので、ワイヤーアンテナとしています。

個人的な見解ですが、ロングというのは比較対象があってのことで、ロングワイヤの場合は、7MHzのダイポールが比較対象ではないかと思います。

最初に開局した当時(1960年代)には、アンテナといえば、7MHzのダイポールが主流でした。 7MHzのダイポールは全長約20mで、これに対して30m以上張ったワイヤーアンテナをロングワイヤーといっていたという認識です。

当局が現用で使っているアンテナは、幼児の落書きのような図で説明すると..

2階のベランダに、クランク状のイレクターパイプを取り付け、そのてっぺんから庭にある木に約13mのアルミワイヤーを張っています。 グランドは取れないので、CQオームのラジアルケーブルセットを使っています。

ラジアルケーブルセットは、5mのケーブルが5本接続されていて、水平に展開して使うように推奨されていますが、まとめて垂らしています。 こういう使い方でも、ATU(Automatic Tuning Unit)を使って3.5~50MHzまでマッチングが取れています。

アルミワイヤーを使っているのは、軽量のためと価格が安いためです。 ただ、直接半田付けができないので、たまに接触不良のような症状が起きます。

ワイヤーアンテナのマルチバンド化

このアンテナをマルチバンド化するためには、ATUが必要です。 当局は、リグがFT-991Aなので、FC-40を購入しました。

このATUは、メモリが200チャンネル入っているので、一度チューニングを取っておくと、後は、瞬時にバンド切り替えができて便利です。

ただ、Yaesuの特定機種(エントリー機に限定。 高級機を使う人は、こんなしょぼいアンテナは使わないので、対応していないと勝手に思っています。)にしか使えません。

FC-40を上記のアンテナに繋いで、マッチングを各バンドでとってみると、7、14、18、21、24、28、50MHzはチューニングが取れました。 アンテナエレメントの長さにもよると思いますが、運が良ければ1.9~50MHzまでマッチングが取れるかもしれません。

1.9MHzは、エレメントの長さ的に無理かもしれませんが、3.5MHzと10MHzはなんとかしたいということで、ローディングコイルを入れてみました。

コイルは、30mmΦのベークボビンに0.65ΦのUEWワイヤーを巻きました。
巻き数は、色々試した結果40回としました。 インダクタンスは、LCRメータで測定したところ31.4μHでした。

このコイルを挿入することで、3.5,10,18,21,28MHzはチューニングがとれるようになりましたが、こんどは、7MHz、14MHz、24MHzのチューニングが取れなくなりました。 あちらを立てれば、こちらが立たずという状態です。

結局、完全なマルチバンド化はあきらめクリップのついたコードで、ローディングコイルを入れたりショートしたりして切り替える構造にしました。

マッチング

ここで、マッチングについておさらいしておきます。 信号源から電力を取り出す場合、供給側の内部抵抗と負荷の抵抗が同じになった時、最大の電力が取り出せます。

いま、供給側電圧が10V、内部抵抗が50Ωの時、負荷抵抗を変化させて負荷で消費される電力を計算してみます。

負荷抵抗を10Ωから100Ωに変化させていくと、電流は徐々に減っていき、負荷にかかる電圧は増えていきます。 電力は、負荷抵抗が50Ωの時、最大の0.5Wになりました。 この状態の時、マッチングが取れたといいます。

アンテナの場合、交流なのでインピーダンスで考えないといけませんが、基本的な考え方は同じです。

アンテナのインピーダンス

それでは、アンテナのインピーダンスはどうなっているのでしょうか?

アンテナインピーダンスを推定するのに便利なソフトウェアがリリースされています。

ご存じの方も多いと思いますが、MMANAというソフトウェアです。 使い方などは、たくさんのサイトで紹介されていますので、ここでは省略します。

こんなモデルでシミュレーションしてみました。

各バンドでのインピーダンスは以下のようになりました。

このシミュレーション結果は、あくまで理想状態(自由空間、ワイヤー無損失等)での結果なので、実際とぴったり合っているわけではありませんが、思考の参考にはなると思います。

ATUのマッチング範囲

ATUは、アンテナインピーダンスと送信機の出力インピーダンスとを一致させる装置です。 最近のトランシーバーの出力インピーダンスは50Ωで、このインピーダンスを上記で計算したアンテナのインピーダンスに変換してやれば、マッチングが取れて、最大電力をアンテナに送り込むことができるということになります。

それでは、ATUではどの程度の範囲のアンテナインピーダンスに対応できるのでしょうか。

幸いなことに、FC-40には回路図が添付されており、そこにマッチング回路の定数が記載されているです。 この定数から、マッチング範囲が計算できそうです。 ただし、回路図と実機が一致していないことはよくあることですし、回路図の定数の全ての組み合わせをサーチしているという保証はないので、これも参考値ということになります。

実際と一致していなさそうなアンテナインピーダンスと、実際と一致していないかもしれないATUのマッチング範囲を計算しても意味がないかもしれませんが、あでもない、こーでもないと思考すること自体が趣味の範囲なので、当局にとっては意味があります。

さて、回路図を見てみると原理的には、下記の2種類のマッチング回路を切り替えていることが判ります。

そして、8種類のコンデンサと9種類のコイルをリレーで切り替える回路になっています。 8種類のコンデンサの組み合わせは255通り、コイルの組み合わせは511通りになるので、コイルとコンデンサの組み合わせは、130305通りになります。(久しぶりに組み合わせの式 nCr というのを使いました。なんか、懐かしかったです..)

計算は、C#で行い、スミスチャートにプロットしてみました。 Visual StudioのC#は、複素数の演算もできるので簡単に計算ができます。 スミスチャートにプロットする方が面倒でした。

パイ型で計算した結果です。 7MHzで特性インピーダンスは、50Ωです。

なかなか綺麗なパターンですね。

L型での結果です。

パイとLの組み合わせで、ほぼ全域を網羅しています。 すばらしい!

50MHzでも同様に計算してみました。

だいぶ、まばらになりました。 これは、相対的に切り替えステップが大きくなるのでしかたのないことでしょう。

アンテナインピーダンスをスミスチャート上にプロットしてやれば、マッチングが取れるかどうか判るのですが、アンテナ側から送信機側へ計算してやるともっと使い易いと思いつきました。

スミスチャートの中央の円が等VSWR円で、内側の円がVSWR=1.5、外側の円がVSWR=2.0の円です。VSWR=1は、中央の一点のみです。

どれくらいVSWR=1に近づくかを見れば、よりマッチングし易さが判ると考えました。

MMANAで求めたアンテナインピーダンスを入力して計算してみました。

7MHzでの結果です。

7MHzでは、L型でVSWR=1.0近くまで下げられそうです。

10MHzの結果です。

こちらもL型で、VSWR=1.0近くまで行きそうです。

この結果は、現実世界とは一致しません。 まあ、世の中そううまくはいきませんね。

アンテナインピーダンスを実測してみる

上で行った実験が現実と合わないので、アンテナインピーダンスを実測してみました。

10年程前に購入したアンテナアナライザーで、直接測定しました。 これは、インピーダンスの実部と虚部が測定できます。

ただ、測定中も測定値がふらふら動き、どうもまともに測定できている感じはしませんが、まあ、ものは試しでやってみることにします。

測定結果です。

実部に0があったり、MMANAのシミュレーション結果と随分違っていたりで、怪しさ満載ですが、とりあえず計算してみましょう。

7MHzと10MHzで確認してみました。

シミュレーションで算出したアンテナインピーダンスで行ったものと、多少傾向は違いますが、10MHzでもマッチングが取れるという結果になりました。

という訳で、期待通りの結果は得られませんでしたが、今の知識では、これ以上やってみるアイデアも湧いてこないので、ワイヤーアンテナの実験は一旦終了します。 また、新しい知見でも得られれば、リベンジしたいと思います。 

コメント一覧

滝沢 功2021年6月17日 08:07 / 返信

興味深いご報告ありがとうございます。 当局もFC-40のユーザーでLWの検討をしております。 土地建物の制約から素直な形状にならず、SWRのあたりをつけたいと思い、もし差し支えがなければATU Simulatorをご提供くださいませんでしょうか? よろしくお願いいたします。

atliqu2021年6月17日 11:08 / 返信

滝沢様 コメントありがとうございます。  プログラムは、他人が使うことを想定していないので、想定外の使われ方をした時何が起きるかわかりません。 また、私自身アンテナの解析に使用するつもりで作成したのですが、思ったような結果が出ていないのでFC-40の動作をシミュレートしているかどうか判りません。 以上のことを承知いただいて使うということであれば、実行ファイルをzip化したものをメールで送りたいと思います。 よろしくお願いします。 atliqu 

滝沢 功2021年6月18日 04:35 / 返信

お返信くださいまして、ありがとうございます。 委細承知の上で使わせていただければと思います。 ご報告にもございましたが、あくまでも机上のシミュレーションとの理解です。 MMANAの集中定数にFC-40のLCの組み合わせをどうやって入力すべきか思案していたところでした。 お送りくださいましたら大変助かります。 よろしくお願いいたします。

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